一日一美。

日常にひそむ美しいものを見いだして、残していきたい。一日一美。

ゆふぐれの泰山木の白花は われのなげきをおほふがごとし

ゆふぐれの泰山木の白花は われのなげきをおほふがごとし

 
斎藤茂吉】 #詞華
 
泰山木の花は非常に大きく、赤ん坊の頭より大きいくらい。
直径25cmにもなるといいます。
 
風向きによっては、遠くでもそれとわかるほどの、甘い香りを放ちます。
近づくと爽やかさが混じって、懐かしさと切なさを感じる香り。
地面近くまで下がった枝に、ひとかかえもある乳白色の花が開いているのを目にすると、思わず顔を近づけたくなる。
 
花のあまりの大きさに、人がみな足をとめて、それぞれが花に顔を近づける。
おじいちゃんも、こどもも、おばあちゃんも。
 
夕ぐれには、いっそう甘い香りが増すが気がします。
 
盞(さかずき)の漢字を取って、大盞木と書くこともあるようです。
 
初夏から梅雨にうつっていくころの楽しみですね。
 

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モクレンモクレン属の常緑高木。
北アメリカ南東部原産。
2017.06.04撮影

 

神山や大田の沢のかきつばた ふかきたのみは色にみゆらむ

神山や大田の沢のかきつばた ふかきたのみは色にみゆらむ

 

藤原俊成

 

「神山」は「こうやま」と読みます。

「神山」は賀茂別雷命の降臨地で、上賀茂神社の後背地の山を指します。

 

京都の初夏の風物詩ですね。

 

歌に詠まれたカキツバタは、大田の沢のカキツバタ群落のものです。

もともと湖沼地帯であったのを賀茂氏が開墾し、今でも大田神社の東側には広い湖沼が残っています。

その湖沼に約25,000株が自生すると言われるカキツバタは有名で、平安時代からの名所と言われ、藤原俊成も歌に詠んでいます。

カキツバタ群落と湖沼は国の天然記念物に指定されています。

 

見に行かないと、なんとなく夏を迎える準備ができない気持ちになります(*´▽`*)

 

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2017.05.13撮影

大田神社京都市北区上賀茂)

水伝ふ磯の浦廻の石つつじ 茂く咲く道をまたも見むかも

水伝ふ磯の浦廻の石つつじ 茂く咲く道をまたも見むかも

 

日並皇子舎人

 

「みなつたふいそのうらみのいはつつじ もくさくみちをまたもみむかも」

日並皇子とは草壁皇子のこと。

草壁皇子皇位に就く直前に病没した際に、舎人が詠んだ(詠むことを許された)歌。

岩つつじは、ツツジと異なる種類ではなく、ツツジ科の一種かレンゲツツジヤマツツジとされているようです。

 

#挽歌

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舎人が見た岩つつじの色は、燃えるような赤だったのでしょうか、それとも葬送の白だったのでしょうか。(喪に服す色が黒になったのは最近のことのはず)

 

2017.04.30撮影

 

 

 

 

すずらんの日

今日、5月1日は「すずらんの日」。

 

フランスでは、すずらんを贈り合ったり、今日だけは誰もがすずらんを売ってもいいとか。

鈴がふるふるとなるようについている形は、ほんとうに可愛らしい。

 

ただ、すずらんは強い毒を持っているので注意が必要です。

 

 

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2017.4.30撮影

京都府立植物園

国破れて山河在り 城 春にして草木深し

「春望」 杜甫

 

國破山河在

城春草木深
感時花濺涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵萬金
白頭掻更短
渾欲不勝簪
 
 
 
国破れて山河在り
城 春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺(そそ)ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火 三月に連なり
家書 万金に抵(あた)る
白頭 掻けば更に短く
渾(すべ)て簪(しん)に勝(た)えざらんと欲す

 

 

冒頭の二句があまりに有名な漢詩

 

杜甫が賊に捕らえられて長安に在ったときの作とされています。

悠久なる自然、戦乱続く世の対比。

 

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写真は、京都御苑(ふだんは「ごしょ」って読んでますけど、正式名称は「御苑」で、「御所」は内裏のことなんでしょうね)の近衛邸跡近くの枝垂桜と下草の花(ウマノアシガタ)です。

下草がこれほどぼうぼうにされているのは珍しく、「春にして草木深し」にぴったりだと思いました。

 

2017.4.23撮影

京都御苑

さかづきに春の涙をそそきける昔に似たる旅のまとゐに

さかづきに春の涙をそそきける昔に似たる旅のまとゐに
 

  

白居易の「十年三月三十日 微之に澧上に別れ十四年三月十一日夜 微之に峡中に遇ふ」の「酔悲して涙を灑ぐ春盃の裏」を踏まえています。

 

白居易では「春のさかづき」ですが、式子内親王の歌では「さかづきに春の涙を」となっています。

「春の涙」とはなにか、と心めぐらさずにはいられない魅力があります。

 

 

 

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当時のさかづきは、こんなに鮮やかな朱塗ではないでしょうね……。

漆の器の艶は、なんとも言えない奥行きがあって見飽きません。

 

2017.4.15撮影