夏は、夜。闇もなほ。螢の多く飛び違ひたる―――
夏は、夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。螢の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
もう、疎水の螢はほとんど終わっているのか、
わずかな輝きがときおり弱く光るだけだった。
今年の六月は雨が少なくて、疎水の水も底をつきそうな風情。
乾いた岸壁が寄る辺ない。
涼を求めて、水を求めて、螢を求めて、八瀬まで足を伸ばした。
橋へ踏み出すと、闇の中で豊かな水の流れる音が辺りの音を消していく。
豊かな闇。
そこここに気配がする闇。
水気に満ちた空気が、肺に満ちてくる。
目を凝らすと、
いっそう闇が濃くなるあたり、躑躅の大木が川に枝垂れているあたり、
螢がふたつ、みっつ、ほのかにうち光りていくのが遠く見えて。
2017.06.16撮影
叡山電鉄八瀬駅周辺
暗闇の中で数匹を撮るのは難しい……
残像が美しかったので載せました。
それにしても、自分の言葉も感性も、古典のうえになりたっているのを痛感する。
「夏は夜」という感性が絶対的に自分に沁みこんでいることに、そら恐ろしくなる。